2019年3月20日

works 115


photographer daisuke nakajima tsubakuro
 「cafe maru 、牟礼から」


丸山有子 photographer daisuke nakajima tsubakuro
photographer daisuke nakajima tsubakuro
 私家版写真集 「cafe maru 、牟礼から」 写真+装丁デザイン



ほんの偶然。

数年前、
都心の喧騒から、少し間合いをとってみようかと、
区市境、パッと空が広がるところに越してきた。
いろんな意味で、ちょうどいい塩梅の、この地。
どうやら大分、馴染みがいいようだ。

越して間もない頃。
転入の届に役場へと、何気なく入った路地。
控えめに「café」と記された、看板をみつける。
へえ、こんな住宅地にお店かぁ・・・
外からは、只々民家然としているばかりで、様子も分からずじまい。
ま、ご近所だし、今度コーヒーでも頂いてみようか。
その日は、そのまま引き上げた。

暫し日の空いた、ある週末。
久しぶりにその看板をみつけ、
少しばかり、思い切ってみる。
恐る恐るの、
「こんにちはー」
扉の向こうに、少しの間があって、
「どうぞ」
庭仕事の店主さんが、手を止め迎えてくれた。
靴のままどうぞと、板張りの床を上がると、
築50年オーバーであろう、木造住宅の室内に、
控えめながらも、雰囲気のある調度品が整然と置かれ、
真ん中には、
フランスのアンティークだという大きな作業台が、
ダイニングテーブルよろしく、ドッカと設えてある。
お、ご近所に、こんな筋の通ったお店。
ハンドドリップのコーヒーに、菓子を頂き、ベジなキッシュを持ち帰る。

それから、
デジ現像作業の合間の、息抜きのコーヒーだったり、
道場帰りの、ちょっと早めの夕食だったり、
ふらっと寄せてもらっては、
店主丸山さんと、訥々会話を交わした。
磨りガラス越しに、街の音がよく聞こえてくる。
返ってくる静けさ。
誠実な仕事の向こうで、正直な心持ちになる。

昨夏、週末の午後。
強靭な日差しの下、
傾き始めた、光の進むさまを眺めながら、
閉じることになった、cafe maruに向かう。
レンズの向こうに、何が見えただろう。

ほんの偶然、めぐり合わせの偶然。
里程標は、刻まれる。


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