2018年11月2日

井ノ頭ノ週末 - 中村まり


photoby daisuke nakajima
  Mari Nakamura at 井の頭恩賜公園西園(三鷹の森フェスティバル2018) 
       date.2018.10.21 Sun.


ある日、届いた広報をボンヤリ眺めていたら、
まさかの中村まり。
井の頭公園でフリーライヴ。
日曜朝から、高い空の秋晴れに浮かれ、
チャリ5分(笑)、近すぎるライヴ会場にミニスツール片手にGO。
三鷹市とジブリが、毎年共同で開催しているみたい。
へぇ、なんともいいサイズ感。
中央線文化圏、来てるなと(?)

中村まりさんの音を、最初に聴いたのは何時だったか。
最初のLiveMagicで聴き逃した記憶が強くて、
てっきり、バラカンさんのラジオかなと思っていたけれど、
時系列を整理してみたら、どうも違うような。
それよりだいぶ前、ロンサムストリングスと彼女の共作盤聴いているって、
ここに書いてあった(笑)。
細野さんのアルバムで名前を拝見したのが、最初かも知れない。

ソロでの演奏。
気負わない風情で、すーっとステージに上がると、
慣れた手つきでアコースティックギターを抱え、二言三言。
空気を切らずにつま弾き始めると、弦の音の色を感じつつ、
空の青さに放たれる。
素晴らしいギター。
それ以上に、ヴォーカルが素敵すぎる正午過ぎ。

虚実綯い交ぜの、お膳立てされた、なんだかなーってのが溢れたこの世で、
こういうホンモノ。
静かに空気感が変わる。

自作曲とカバーを織り交ぜつつも、
その境界が曖昧になるくらい、一つの色調が冴えて響く。
彼女の装いと快晴のブルー。
カントリーブルーズの冴えた青。
ギターでの3曲から、歯切れのいいバンジョーで1曲。
それから2曲をギターで奏で、抑制の効いた歌のフレージングに、すっかり解かれる。
織りなす短編が目の前に。
ヒンヤリした木陰と、硬い陽の光。顔が半分焼けるよう。
普段の週末に、何食わぬ顔で奏でられる、物語と出会う幸運。




会場で手に入れた、
「Beneath the Buttermilk Sky」。
特段、ルーツミュージックに明るい訳でもない自分が、
何か言うのもおこがましいのだけれど、
ひとりのシンガーソングライターの作品として聴いたとき、
どこまでも真摯に音と向き合った、
隙のない映像作品のような仕上がりに、完全にやられる。
これ、自作曲なのか!
時代に洗われながらも残るスタンダード、ってあるじゃない、
ガーシュインだったり、エリントンだったり、WCハンディだったり・・・etc。
どことなく、匂いが似ているんだよなあ!
その上にモダンな味付けが、今の耳には絶妙。

ライブでも演奏していた、
「Black-Eyed Susan」に、心奪われる。
静かに、でも確実に心掻きむしる、美麗なメランコリック。
さながら都会の片隅のHobo's lullaby。
闇と、沁み入る。

アコースティックギター、マンドリン、口琴、何気にファンキーなブルースハープ。
どれも音の鳴り、録れ具合、すべてが絶妙。
でもやっぱり、ヴォーカルの唯一無二には、最もやられる。
こういう言い方はあまり好きじゃないけど、
日本人で、こういう質感、情感、なかなか聴かない。
もうね、サザンオールスターズとスインギンバッパーズぐらいしか聴かない(ホントかよ)
おっさんでもやられるわ(笑)。
もともと耳のいい人が、人知れず、研鑽の上に辿り着いた末の、歌なんだと思う。
結局、歌唱って最も生理に訴えてくるだけに、
演奏が良くても、歌が受け入れられない、ということが割とあるんだけれど、
彼女の歌声は、ある種の民謡の歌い手のように、器楽的に響いて、入ってくる。

どこかユニークな筆致の、ジャケットのペインティング。
盤に、光と影を浮かび上がらせている。
本当に良い仕事をする人が、しっかり息の長い活動が出来る、
そういう世の中であってほしい。

傑出した作品と出会う喜び。
あくまでも静かに、さり気なく。



 名盤。
Beneath The Buttermilk Sky